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『特別企画:林芳正自由民主党税制調査会インナーに聞く』④

2021/07/02 [FRI]

当事務所の岡本税理士が進行役を務めました『特別企画:林芳正自由民主党税制調査会インナーに聞く』の記事が、中国税理士政治連盟の会報『中国税制連』2021年5月号(No.63)に掲載されました。

当HPでも、この記事を4回に渡って掲載します。

・第1回

・第2回

・第3回

・第4回

 

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―― 続いて消費税についてですが、税理士会として一番危惧しているのは、免税事業者の仕入税額控除が控除できなくなるということです。これは四年前に宮沢先生(元自民党税調会長)にお聞きしたのですが、中小企業がそれを排除されることを一番危惧している。もうひとつは、今のいわゆる帳簿方式と言われている計算を我々は日々やっているのですが、インボイスと比べてどう違うのかなと思うのですが。実務感覚から言うと今の帳簿方式でやってもそんなに差は出ないと思っています。もちろんインボイスの方が一円まで確定するので、正しいのは間違いないと思いますが。ただ、我々が三十年間税務申告をしていて、インボイスでやるのと帳簿方式でやるのと、どれだけ税額に差が出るのかというと、ほとんど差が出ないと思います。それなのに、膨大な手間をかけてインボイスを導入するというのにすごく抵抗があります。特に我々だけではなく、納税者の事務負担が大幅に増加する中で、2023年からなので帳簿方式を残すという選択肢はないのでしょうか。

 

<林>帳簿方式との差が「ほぼ」というのは、何円かの単位で差が出るということですか?

 

―― 切り上げ、切り下げなどもありますので、規模が大きくなればそれなりにやっているのですが、中小企業の場合で言うとインボイスでやらなくてもおそらく数万円しか出ないと思います。そうなのに、事務コストを大幅にかけてインボイスをやる必要が本当にあるのでしょうか?また、商品価格の総額主義が四月一日から完全に強制されたりして準備に入っているのだろうなとは思いますが、今、インボイスを導入するのがどうなのかなと思います。中国とかヨーロッパに行っても、インボイスというのはすごい大変ですよね。発票をもとに一括表を作ったりとか。

 

<林>物理的に言うと帳簿方式でも請求書を出すわけですよね。インボイスが入った後も帳簿方式との接続には様々な配慮をしていますが、手間が違うというのは、どこが具体的に違うのでしょうか?インボイスを相手に送るという手間でしょうか?

 

――例えば小規模な小売り業者に対しても全てそういう表示をさせたり、コンピューターシステムも変えなければならない場合もあります。また小規模な小売業者、サービス業者の中にはまだ手で伝票を書いているような人もいらっしゃるのが現状です。

 

<林>なるほど。小売りでお客さんが来た時にレシートを出さないようなところですね。

 

―― そういうところもありますし、いろいろな形態があると思います。

 

<林>我々もまだ一字一句全部決めた訳ではないと思いますので、2023年導入予定ですから、これ位でいいのだというイメージで大分議論していて、これなら例えば我々が普通にコンビニに行って買物をするような折に、これは軽減税率と書いてあって計算すればというのとほぼ変わらないようなものなので、私もいろいろなご意見を聞くのですが、先ほど申し上げた「松竹梅」の「梅」の人ですね、今まで帳簿をつけていない方が「竹」になるに当たり、クラウド型になった時に手間がどれくらいなのかということを見ながらですね。デジタル化すると手間の差が実はあまりないのかなと。何でも売っている田舎の小売店でも、一回導入してやったりすると自動的に生成されますよね。商工会の中でもかなり小規模なところの人をどうするかという話を数年前に議論したこともあります。

あとは、この金額より下の人はこの仕組みの義務化の下限を決めていたと思います。消費税そのものにも下限があるので、その下限より下の方たちをどうするかというのは、最終的に詰める時にありうると思います。この話と適用除外の話とデジタル化の話とで、本当に合理的な議論をしないといけないという認識はずっと持っているので、そこはあまりに煩雑で、中小企業や零細企業にとって過度な負担にならないようにしなきゃいけないと思います。

 

――特にインボイスだと一円まで出さないといけない。日本人ですからおそらくは合わせるとは思いますが、その手間も相当なもので、中小企業のデジタル化というのは部分的なものが多いです。今は帳簿に記載してあればOKなので、帳簿から逆算して計算しているような感じですからまだ楽なのです。ではインボイスで全額にどれだけ差があるかと言えば、おそらく差はそんなになく、最大数万円かなと。

 

<林>変わると言ってしまうと、それはいいのか?と、どうしても出てしまうので、むしろそこは簡易方式で常にどんなルールでもありますから。いくら売り上げできるのかわかりませんけど、そういうところで方式をやるというのは、インボイスの時も決めてなかったでしょうか? もう少し時間がありますので、何かものすごく事務処理が大変で、特に中小企業や零細企業が大変だということがなるべくないように、検討しないといけないなと思います。

 

―― ちなみにインボイス導入にあたっての論点はありますか?

<林>そうですね。基本的には導入予定ですから、法律レベルでの議論は基本的に残ってなかったかと思います。

 

―― 税理士法改正についてですけども、大綱の検討事項にありました、税理士の業務環境や納税環境の電子化といった税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応するということと、多様な人材の確保、税理士の信頼を向上する。具体的には税理士法改正とはどのようなことを念頭に置かれているのでしょうか?

 

<林>これは税理士の皆様からのご要望を聞きながら、まさにここにあるように業務環境や納税環境のデジタル化対応ということが非常に大きいので、むしろ我々がこうあるべきというよりは、政府の方でしっかり要望を聞いて、その中で改正をしていく。税制調査会としてはそれを視野に入れて、それに対応して必要なことをやるということです。必ずしも税制調査会が決めるということではなくて、税制そのものはここでやりますけども。税理士の制度というのは我々というよりも財政金融部会で議論があるし、そこでは当然のごとく税理士の皆さんのご意見を聞いていくということになっていくと思います。

 

―― 今、時代の流れとしてIT化が進む中、事務所に出向かず在宅で仕事ができる環境になっていますが、税理士法ではいわゆる2か所事務所を禁止しています。また、署名押印の廃止や、多用な人材の確保のための資格制度の見直しが、非公式ですが今のところこの3つが次期税理士法改正における改正事項として税理士会の中では上がってきています。今回の大綱の表現は、こういったことを汲んでいただいて書かれたのかなぁと思いました。

 

<林>まさに今仰ったとおり、業務環境・納税環境の電子化を目指すためこのような表現になっていますので、おそらくそのような意向を取り入れて進められると思います。ただ、私のこれまでの経験で申し上げますと業際の取り決めですね。例えば弁護士さんとの間はどうするか?そういう懸案事項があると様々な調整をしないといけません。私も過去に弁護士さんと行政書士さんとの間の調整事項でかなり苦慮したことがあります。そういうことがなく国税庁と税理士会の間で時代に合わせた協議がなされた結果であれば、基本的に反対する必要はないのではないかと思います。

 

―― それでは政府税調との関係についてお聞きします。『税理』という専門雑誌を読んでいたら、もともと贈与税の議論というのは令和元年に政府税調の方から出てきたということが書いてあったのです。政府税調は租税の専門家というか大学教授の方が多く議論のお好きな方が多いので、おそらくそういうところから出たのかなと思ったのですが、政府税調と自民党税調の関係はどのようなものなのでしょうか?

 

<林>昔、有名な山中会長の時に「我々、政府税調は軽視しません。無視します」というご意見がありまして。そのことが頭にあって、去年の税調の時に甘利会長が「しっかりご意見を承ります」と言って笑いを誘う場面がありましたが、それは冗談として、岡本委員長の言われた通り、政府税調はどちらかというと税の専門的学者の先生を中心にいろいろな分野の方が入っておられて、一般の方とか企業の方の意見を聴けるような仕組みになっていますが、どちらかというと税の理論体系を見ながら中長期的に大きな方向性を議論していかれるというのが政府税調です。党の税調の方は、例えば「今年のビールの税金をどうするか?自動車の税制はどうするか?」といった国民の生活・経済の流れを見て実際の金額を決めなければいけない。そういう業界との調整も含め毎年の税制を決めさせていただくというのが政府税調と違うところであり、党の政治の役割だと認識しています。「政府税調ではこういう議論になっています」というコメントは、党税調でも随時聞いて参考にさせていただきながら進めています。中長期的にこちらの方向でという、先程のIRAの話についても政府税調のご紹介を党税調が受け、諸外国での取扱いを比較検討して、政府税調で理論的に詰めた議論をしていただいている部分はあります。

 

―― 我々が税制建議を作成するに当たっては、公平・中立・簡素という観点のもと検討をしており政府税調と同じ見方といえますね。与党税調では政策的な観点から提言をされており、両税調のバランス感覚の集大成が大綱となるわけですね。

 

<林>その通りです。税制の理想的な姿を政府税調でご議論いただいています。聞いているとわかるのですが、大半は「税金を負けてくれ」という議論ですね。若干違うのは、総務部会というとろは総務省でもあるので、地方税制・地方財源については中立するというスタンスです。これが面白いことに、財政金融部会で国の財源を確保しろと言う人は一人もいません。逆に言えば、いろいろな要望を聞きながら100%全部聞きますと税金がなくなってしまいますので、なんとか国税も含めた税財源の確保というのが税政調査会の幹部の共通認識です。ただ、時々の状況に応じて経済政策に対する要請とか社会のいろいろな要請に応えて、最終的に政治判断が必要な部分、今年で言えば固定資産税を理論上は細かく切って土地が上がったところはどれくらいやるかという議論をかなりしました。最終的にはコロナでこれだけみなさん苦しんでおられ、固定資産税の性格上、収益があろうがなかろうが出ていくということで、地価が上がったところについては全部据え置くという、ある意味ではかなり政治的な決着をしたという。これが一番苦労したところです。税の理屈から言えば、市長さんはその街の魅力を高めるためにいろいろな施策をやられて、その結果、魅力的な街ができて企業なりいろいろな方に来ていただいて、土地の値段が上がるというのが固定資産税の三年の見直しで反映されているわけですね。だから、街づくりの通信簿でもあるので、せっかく上がったのに「上がるのはだめです」と言うのは市長さんにとっては非常に残念な話なのですが、今回はこういう状況で100兆円の当初予算に対して80兆円も補正を組んでいろいろなことをやっている時に、固定資産税だけはいつも通り頂きますとはなかなか言えないということもあり、今年は据え置くという判断をしました。このような判断は党でやらないと難しいだろうなと思います。

 

―― 固定資産税というのは市町村の財源の中でも恐らく相当重要な財源ですね。その中で、反論というものはなかったのですか?

 

<林>党内でも総務部会という地方自治を担当される先生方からは、しっかりメリハリをつけて上がったところについては.一定の負担措置をちゃんとやれという意見は当然出てきました。一方では複数の方からは「みなさん苦労されているので」ということで、最初の頃は一月一日時点の評価ということでしたが、コロナが三月位から始まっているので、しかも七月に中間的にやった調査では土地の価額が下がっています。したがって一月がピークだったのか、本来のピークは三月位じゃないかと。そうすると実はグラフで書くとわかるのですが、一月から七月へ行くと値段の平均はこの辺(直線の中点)になるのですが、一月から三月の間にもっと土地の価額が上がって、四月から七月の値段が下がった場合に傾きがもっと急激になるので、この三年間の平均価格はもっと下がるわけですね。

だからそれについて国交省などは急激なカーブと推計して持ってくるし、総務省は「いやいやこの数値です」ということがあったわけです。いろいろな調査をやって数字を見て議論したのですが、最終的には減税にはならない、据え置きですから。土地が本年一月一日時点で下がっているのは予定通りですけども、上がった分は据え置くというかたちで、ある意味すっきりしました。そうしないと、細かくやるほど線引きの説明が難しくなります。どんなに理屈的に正しくても、線を引くと払う人と払わない人が出てきて、必ずそこから文句が出るだろうという判断をしました。

 

―― それでは最後になりますが、毎年税理士会が後援会を通して税制改正要望の建議をさせていただいておりますが、これについてのご感想を伺いたいのと、中国税理士会には約3,000名の税理士がいますので、その税理士に対して期待する点をお聞かせください。

 

<林>まずは、毎年建議を頂きありがとうございます。いつも背筋の伸びる思いで聞かせていただいております。要望というと先ほど申し上げた通り、減税の要望がほとんどでございますので、その中で税理士会が「税制はこうあるべき」という激論をしっかり建議していただけるのは、大変重要なことだと思っております。我々は現実的な減税のご要望とあるべき税制の中のなるべく理想に近いところで、現実の要望を吟味していくというのが使命だと思っております。今後ともあるべき姿をしっかり議論していただいて、デジタル化など時代が変わっていきますので、これは税の実態面でも手続き面でも影響があると思いますし、デジタルやグリーンを通じて社会が変わっていく中で最先端の現場におられるということで、それぞれの税理士の先生方には専門家として、税という、すぐに思い浮かぶのは国税ですけども、政府全体と納税者たる国民の間を繋いでいただいているその役割にご期待をするところ大であります。先程会長からは、そもそも政治に関心を持っていただくというのが第一目的であると仰いましたが、そうやって繋いで集約された税金が、国費としてどういうところに使われていくのかということは、回り回って国民のみなさまに政治に関心を持っていただくことと裏表と思いますし、それが100%ではないにしろ、ある程度納得感を持っていただかないと納税意識の高まりにつながっていかないということがあると思います。ある意味、民主主義の大事な根幹的な部分を支えていただいていると思っていますので、引き続き、税理士法の改正も視野に入れて、現場でのご奮闘を期待申し上げております。

 

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広島総合税理士法人