当事務所の岡本税理士が進行役を務めました『特別企画:岸田文雄前内閣総理大臣に聞く』の記事が、中国税理士政治連盟の会報『中国税政連』2025年6月号(No.75)に掲載されました。
当HPでも、この記事を4回に渡って掲載します。
・第1回
・第2回
・第3回
・第4回
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令和七年四月五日(土)、中国税政連広報委員会は、令和三年十月から令和六年十月まで内閣総理大臣を務められた岸田文雄議員(衆議院広島一区)に、公務ご多忙の中、取材の機会をいただくことができました。岸田議員は国政の第一線を離れてもなお、政策立案力と内外に通じる幅広い人脈により、現在も多方面で精力的に政治活動を行っていらっしゃいます。今回は、国民の関心事となった所得控除の行方をはじめ、国際社会における日本の立ち位置などについてお話をいただきました。
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賃上げ税制について
──ありがとうございます。続いて賃上げ税制についてお聞かせください。先生の著書「岸田ビジョン・分断から協調へ」を拝読させていただきました。賃上げ税制というのは、いわゆる新しい資本主義の実現に向けた最優先事項であると我々は捉えているのですが、この何年間かに亘る賃上げ税制と、賃上げに伴う今後の展望について先生のご意見をお伺いできますでしょうか。
〈岸田〉賃上げというものの位置付けですが、日本においては三十年間賃金が上がらない。物価が上がらない。その結果として企業収益が上がらない。このデフレのスパイラルを三十年間続けてきたと言われてきました。この状況を何としても脱しなければならない。企業が成長して賃金も上がる。このような経済に変えていかないと日本だけ取り残されてしまう。
このような問題意識を持って、賃上げを起点として成長と分配の好循環を実現する。賃上げと投資が循環することによって経済を成長させていく。これが新しい資本主義という経済モデルの基本的な考え方です。今の日本がこれを取り戻すためには、単にマーケットや競争に任せただけではこのような循環基調には戻らない。
競争に任せておいて高所得者から儲かって、大企業から儲かってトリクルダウンで下に降りてくるとずっと言ってきたけれど、全然実現しなかった。マーケットに任せているだけじゃダメだ。やっぱり官民が連携して賃上げのきっかけを作らないとダメだとして、この新しい資本主義という経済モデルにおいては、まず医療とか介護とか教育の賃金というものは公的価格、国が決める価格ですから、このような部分は国が旗を振って賃上げを勧め、民間にも協力してくれと依頼する。そして民間の皆さんには、賃金が上がると消費が拡大する。消費が拡大すればあなた方の収益、企業収益は上がりますよと促します。そして企業収益を上げてもらったら、その上がった分を次の賃上げに回してもらう。そして一部は自らを拡大し成長投資に回してもらう。この循環を回すことが日本の経済を大きくする。
日本において、今まで三十年間、賃上げというのはコストだと思い込み、できるだけ叩いて賃金を上げないできて、企業に少しでも残して生き延びていこうという考え方でした。これは成長ではなくて、逆にどんどん縮小する方向へと進んでしまった。今、政府が率先して賃上げを勧めていきます。だから民間の皆さんも賃上げすると、好循環が始まったらあなた方も儲かるんですというのを二年間ずっと説得してきました。それでようやく去年から経団連も連合も、賃上げしないと自分たちが困るんだというのに気付いて、去年、三十三年ぶりに五%を超える賃上げを民間は示しました。
そして今年の春闘においても大企業のみならず、今のところ中小企業も五%を超える賃上げ額が軒並み回答されている状況なので、ようやく意識改革が進んできたのではないかと言えます。まずは賃金を上げる。そして消費。その後は広く拡大して企業収益を上げる。自分たちが賃上げすると自分たちの企業が儲かるんだということに社会がようやく意識改革してくれた。その動きが始まっているということです。
しかし、これはまだ大企業とか大都市の動きであって、中小企業においても今年は五%を超え徐々に広がりを見せているところですが、中小企業の場合は人手不足とか、止むを得ない事情により賃上げしている部分がありますので、価格転嫁、生産性向上支援、賃上げ税制等がなければついてこれなくなってしまいます。賃上げ税制というのはこの大きな経済の流れの中で、特に中小企業にこの流れに乗ってきてもらうために重要です。そもそも何のために賃上げをするのか理屈がわからなければ、こうした取組みの意味をわかってもらえません。そのためこのことを二年間ずっと説明してきて、ようやく世の中が「ああ、そういうことかと。賃上げはコストじゃなくて、この経済の成長のための投資なんだ。」という意識改革が進んでいます。
その流れを中小企業、そして地方にしっかりと根を張らなければならないということで、去年、今年と税制改正の中で賃上げ税制というものを充実させてきました。要は、賃上げ税制が目標じゃなくて、中小企業あるいは地方の零細企業が賃上げのこの流れにちゃんとついていけることが目的なので、引き続き賃上げ税制については充実させることによってこの好循環を持続させる。そして中小企業や地方に広げていく。このために賃上げ税制は続けなければならない。このように思っています。
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(『中国税政連』2025年6月号(No.75)『特別企画:岸田文雄前内閣総理大臣に聞く』より)
③へ続く
広島総合税理士法人