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教えて!相続先生『 相続時精算課税制度のメリットとデメリット 令和5年度改正』

2023/09/29 [FRI]
令和5年度の税制改正により相続時精算贈与と暦年贈与の両制度が改正されました。
令和6年1月1日以降の贈与から以下の内容となります。
 
1.改正点
 
相続時精算贈与
 
①相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとする。
 
②特定贈与者の死亡に係る相続税の、課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の基礎控除110万をその贈与年ごとに控除した後の残額とする。
 
 
暦年贈与
 
①相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該相続の開始前7年以内(現行:3年以内)に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算することとする。
 
②当該財産のうち当該相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産(改正による追加の4年分の財産)については、当該財産の価額の合計額から合計100万円を控除した残額)
 
 
 
 

 
2.改正前・相続時精算制度のメリット・デメリット
 
メリット
 
①特別控除額2500万円は、暦年贈与の1年あたりの基礎控除より大きく、一度に多額の贈与を行っても「その時には」暦年贈与よりも贈与税を抑えられる。
②相続時、相続時精算贈与の価額を加算しても課税価格が相続税の基礎控除以下になる相続では、贈与、相続ともに無税になる。
③相続時には贈与時の価額で相続財産に加算されるため、将来値上がりが見込まれる財産を精算贈与する相続財産を低くできる可能性がある。
 
デメリット
 
①特定贈与者の「相続時には」、必ず全額が相続税の課税財産となる
(基礎控除以下なら納税はないといえるが、全額が基礎控除と比較される財産であることには変わりない)。
②相続時精算贈与を選択した後は撤回できない。
③相続時精算贈与の適用対象者の要件がある。
④相続時には贈与時の価額で相続財産に加算されるため、贈与時に比べ値下がりした場合には、時価よりも相続財産が高くなる。
 

 
3.改正後・相続時精算制度のメリット・デメリットがこう変わる
 
改正前のメリットの①②、デメリットの①変わります。
デメリットの②③④は変化ありません。④は実際には株式や不動産などの時価の将来予測はリスクをゼロにできないこと、暦年贈与も同様であることは改正があっても変わりません。事業承継税制の時には有効にできるケースもあるという認識です。
 
メリット
 
①-1特別控除額2500万円は、暦年贈与の1年あたりの基礎控除より大きく、一度に多額の贈与を行っても「その時には」暦年贈与よりも贈与税を抑えられる。
 
①-2相続税でも暦年贈与よりも抑えられるケースがある(しかも結構あてはまりそう)
 
例)相続開始前の7年間で毎年110万円ずつ7回贈与
精算贈与の場合
・加算対象110万円×7
・控除額110万円×7
・相続財産とみなされる額 ゼロ
 
暦年贈与の場合
・加算対象110万円×7
・控除額100万円のみ(7~4年前の贈与額の合計>100万円)
・相続財産とみなされる額 670万
 
②相続時に、相続時精算贈与の価額を加算しても課税価格が相続税の基礎控除以下になる相続では、贈与、相続ともに無税になる。
 
②-2 上記①-2のケースがあるため、加算すべき精算贈与の価額が、贈与回数×110万円(全て110万円以上の精算贈与の場合)分減るため、より相続税が無税になるケースが増える
結果、改正前のデメリット①に該当するケースが減る
 
③相続時には贈与時の価額で相続財産に加算されるため、将来値上がりが見込まれる財産を精算贈与する相続財産を低くできる可能性がある。
 
デメリット
①特定贈与者の「相続時には」、贈与回数×110万円(全て110万円以上の精算贈与の場合)を差し引いた金額が相続税の課税財産となる
 

 
4.上記踏まえた上での使い所ポイント
 
◆財産規模
改正で受贈者1人につき110万円×年数分の財産を相続財産から除外できることとなりました。
相続時精算課税適用者は相続人や孫ですので人数に限りはありますけれど、確実に相続税負担が減っていきます。
この額が被相続人の財産規模に対して大きなウェイトを占めるのであれば地道に行う価値はあります。そうでない規模でしたら、やはり他の節税方法の方が効率がよいこともあるでしょう。
 
◆財産の種類
精算贈与は金融資産、特に預貯金で行うのが最善といえます。不動産は名義変更のコスト負担も大きくなっていくこと、非上場株式では諸問題(株価算定コスト、時価変動、議決権確保、会社法手続等々)もあることなどから精算贈与し続けるとそれだけ負担が増えるていきます。
 
改正後の新制度ではより相続時精算制度が使いやすくなり、暦年贈与は実質増税ということで、相続時精算制度へシフトの動きが一定数あることが予測されます。
ですが、その前には必ず相続税(二次相続含む)と贈与税とを合わせてシミュレーションしてから選択するようお勧めします。
 
広島総合税理士法人